「努力できることに感謝」
ハワイアンカルチャーサロンが始まるので、サロン室を作るにあたり不要なものを処分していたところ、昨年読んだ雑誌が出てきました。そこに付箋があり、開いてみると…私がとても感動した記事がありました。
2019年4月12日に行われた東京大学の入学式で祝辞を贈った、社会学者の上野千鶴子さんの言葉です。
上野千鶴子さんは、熾烈な競争を勝ち抜いて入学してきた新入生に対して、このような言葉を贈りました。
「あなたたちはがんばれば報われる、と思ってここまで来たはずです。ですが、冒頭で不正入試に触れたとおり、がんばってもそれが公正に報われない社会があなたたちを待っています。
そしてがんばったら報われるとあなたがたが思えることそのものが、あなたがたの努力の成果ではなく、環境のおかげだったこと忘れないようにしてください。
あなたたちが今日「がんばったら報われる」と思えるのは、これまであなたたちの周囲の環境が、あなたたちを励まし、背を押し、手を持ってひきあげ、やりとげたことを評価してほめてくれたからこそです。世の中には、がんばっても報われないひと、がんばろうにもがんばれないひと、がんばりすぎて心と体をこわしたひと…たちがいます。
がんばる前から、「しょせんおまえなんか」「どうせわたしなんて」とがんばる意欲をくじかれるひとたちもいます。
そして、上野さんは、新入生の頑張りが報われてきたのだとしたら「それは周りにいる人たちが励まし、背を押してくれたからだ」といいます。
そして、頑張って勝ち抜いてきた人たちに向けて、その力を弱者のために使ってほしいと呼びかけました。
「あなたたちのがんばりを、どうぞ自分が勝ち抜くためだけに使わないでください。恵まれた環境と恵まれた能力とを、恵まれないひとびとを貶めるためにではなく、そういうひとびとを助けるために使ってください。」
東京大学 ーより引用
私は3歳から18歳までピアノとエレクトーンを習ってました。15年間ずっと好調に続けていたわけではなく、アメリカにいる間はもちろんお休みしてましたし、バスケットボールに打ち込んでいた時期も少しお休みしていた気がします。
最初はピアノから始めるわけですが、毎日コツコツと練習することは当時の私にとっては苦痛だったのでしょう。ピアノのお稽古に向かう道の淀んだ空気感を今でも思い出せます。バスケットチームに所属したのもこの時期で、それを理由に母親に辞めたいと伝えました。ところがどんなに辞めたいと言っても母は断固無視。そして、私は5年生の時に自ら先生にピアノをやめたいと打ち明けてしまったのです。それを知った母親は意外にも怒らず…数日後に学校から帰るとなんと部屋にリサイクルショップで見つけたという中古のエレクトーンが置いてありました。
1度始めたことはやり抜くこと。始められたこと、ここまで続けられたことは当たり前のことではない。
音楽を続けなさい。必ずやっててよかったと思う時がくるから。
ピアノが嫌ならエレクトーンで。あなたの先生が両方教えてくれる素晴らしい先生でよかったね。
「はい、分かりました。」と答える前に部屋にエレクトーンがあるわけなので、当然触ってみることになります。
わぁ!なんかすごい!楽しそう!
そう、私は音楽が嫌なのではなく、コツコツと練習するという事が嫌だったのです。
そこに気づいていた母親は「コツコツと練習すること」「学ぶということ」を辞めさせなかったのです。
努力することが嫌でなければ、好きなことや興味のあることはどんどん身になっていく。でも努力する事が嫌いだと、好きなものも嫌になっていくものです。
「努力することを苦にしない」
という力がついたのも、母の作戦に乗ってしまったあの頃があるからなのかなと思います。結局、翌月から同じ先生にエレクトーンでまたお世話になり、東京へでるまでの6年間エレクトーンをコツコツと楽しんだのです。
今思えば、「音楽は感性を豊かにする」「努力が目に見えて形になるから面白い」という母の考えのもと、フルートや合唱にも取り組めたのかなと思います。
40歳を超えた今、思い返してみると音楽から学んだ事は計り知れないのです。母があの時言ってた「必ずやっていてよかったと思う時がくる」という言葉が蘇ります。これは音楽でなくても、スポーツでも美術でもなんでもよくて、たまたま母(我が家)にとっては音楽だったのだと思います。
目の前にあることをコツコツと取り組むうちに、最初は気づかなかったことに気づいたり、見えなかったものが見えるようになったりして、スキルを得た分力量も増えますし、自信もつきます。私はこの幼い頃の経験から努力は嘘つかないし、いつか報われるとして「努力する」という行為を信じてやってきた気がします。
そして、この上野さんのお言葉を聞いた時、一瞬で母と音楽を15年間に渡り教えてくださった野島先生が目に浮かんだのです。
「がんばったら報われるとあなたがたが思えることそのものが、あなたがたの努力の成果ではなく、環境のおかげだったこと忘れないようにしてください。」
今私はフラの世界で沢山の生徒さんに囲まれて、フラやハワイ文化で学びを与えることを仕事としてさせてもらってます。沢山のステージの機会をいただき、競技会にも出させていただきました。恵まれた環境に感謝すること、謙虚でいることを決して忘れずに、これからもコツコツと努力させていただこうと思います。
今、手にとったこの雑誌を捨てずに大切にとっておこうとそっと本棚に入れました。
南由希子
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